World Gin MAKERS 〜世界の造り手さんに想いを聞く〜 第6回 『橘花KIKKA GIN』大和蒸溜所

World Gin MAKERS 〜世界の造り手さんに想いを聞く〜 第6回 『橘花KIKKA GIN』大和蒸溜所

こんにちは、Ginny Club池田です。

今回の「World Gin MAKERS〜世界の造り手さんに想いを聞く〜」は、私池田が担当させていただきます!

今回お邪魔したのは奈良県御所(ごせ)市にある『大和蒸溜所』。白いボトルと橘の家紋が印象的な「橘花KIKKA GIN」を造る蒸溜所です。

大和蒸溜所を運営する油長酒造株式会社は、日本酒「風の森」でも有名な300年続く老舗酒蔵。もともとは油屋さんから始まったというその長い歴史の中で、なぜクラフトジンを造るに至ったのでしょう?そして、奈良県唯一のクラフトジン蒸溜所として大切にされていることとは?

郷土への想いと歴史に溢れたお話を、たっぷりと伺ってきました。

 

●お話を伺った方:大和蒸溜所(油長酒造株式会社)蒸溜所長 板床直輝さま

 

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300年続く老舗酒蔵が手掛ける、奈良の歴史と風土が詰まったクラフトジン

 

― 板床さん、本日はよろしくお願いします。私、橘花KIKKA GINを知ったのは数年前に飲食店でたまたま飲んだのがきっかけでそれ以来すごく好きなんですが、実は日本酒の「風の森」で有名な酒蔵さんが造っているというのはつい最近知ったばかりでした。

 

そうですね。うちは300年続く酒蔵で、もともとは油屋さんとして始まったんです。そこから酒蔵に変遷していって、「風の森」という日本酒自体は25年ほど前から造っています。この蒸溜所も約150年前の古民家なんです。昔ながらの趣を残しながら、現代建築としてリノベーションしています。

 

― 築150年前の古民家!たしかに外観は昔ながらの瓦屋根の日本家屋ですが、中はとってもモダンですよね。

 

(写真)蒸留所外観。築150年の歴史を感じる瓦屋根。
 撮影:笹の倉舎/笹倉洋平

 

奈良屈指のバーテンダー、鶴の一声で生まれた橘花KIKKA GIN

― そんな300年続く日本酒の蔵元さんが、なぜクラフトジンを造ることになったのでしょう?

 

きっかけは奈良の桜井にある「THE SAILING BAR」のマスターバーテンダー渡邉さんという方の一言でした。2017年に弊社の代表山本がセイリングバーにお邪魔するタイミングがあり、普段は日本酒を扱っている山本がそこで「日本酒と洋酒では全然違う!」と感銘を受けたんです。その後我々社員を連れていってくださることが増えて、その時に私も渡邉さんにたくさんお話を聞かせてもらったんです。

その渡邉さんのお話がすごく面白くて、ジンの話もたくさん教えてもらって、いっぱい飲ませてもらって。もともとジンはジントニックで飲むもの、という印象しかなかったのが、渡邉さんの話を聞いて「ジンって面白い」と思ったんです。

しかもたまたま会社としてスピリッツの製造免許を持っていたこともあって、渡邉さんが「じゃあ奈良でジン造るのは油長さんだね」と(笑)

 

― なるほど、ではセイリングバーでの渡邉バーテンダーとの出会いがなければ、橘花KIKKA GINは生まれていなかったんですね!
そこからどのようにしてクラフトジン造りをスタートされたのですか?

 

日本酒分析用の蒸留器から始まった試行錯誤のクラフトジン造り

 

そこからはまず、日本酒の分析用に使っていた蒸留器を使って試作を始めました。米焼酎とネットで買ってきたGABANのジュニパー入れたら、「ジンやん」ってなって(笑)じゃあジンいけるよなって(笑)

 

― GABANのジュニパー!(笑)では本当に最初は手近にあるもので手作りした、というところからなんですね。

 

そうなんです、意外に作れたというか、そりゃジュニパーの香りすればジンなんですけど(笑)それで、他のボタニカルを探す段になって、最初に探したのが『大和当帰』という、ボタニカルでした。

橘花KIKKA GINはボタニカルとしてはジュニパーと大和橘と大和当帰という3種類だけなんですが、そのうちの一つ大和当帰は、根っこが当帰という漢方薬として使われています。ただ、そちらは医薬品になるので薬事法上使えない。だけど葉っぱの部分はセロリっぽい香りで使える、ということで葉の部分を使っています。

ただ、いざやってみたらセロリみたいなものなので正直味はよくはなかった(笑)


(写真)大和当帰。ちぎって嗅いでみると、まさにセロリの香りが。

 

そこで奈良県ならではのボタニカルを探したら、大和橘という柑橘があったんですが、これを合わせたらすごく良くて、それで橘花KIKKA GINが完成しました。

 

― そうなんですね。3種類しかボタニカルが使われていないというのにも驚きました。
もう一つの大和橘というボタニカルはどのような特徴があるんですか?

 

日本書紀や万葉集にも載る、歴史ある日本固有種「大和橘」

 

大和橘は準絶滅危惧種で、2000年程前から存在している日本固有の柑橘です。日本固有種は、この橘とシークワーサーしかないらしいんですよ。日本書紀とか万葉集にも載っているぐらい昔からあるもので、京都御所では「左近の桜、右近の橘」と呼ばれていたり、500円玉にもレリーフが彫られているぐらい日本にゆかりのある歴史ある柑橘です。

とはいえ奈良は柑橘の場所ではないのでもともとは神社などに植わっている程度しかありませんでした。10年ぐらい前から奈良橘プロジェクトというのが立ち上がって、ようやく今は少し取れるようになりました。

 

― すごい歴史が詰まっているんですね!では橘花KIKKA GINのこの「橘花」という字はその橘から来ているんですか?

 

そうなんです。このロゴマーク(ボトルに描かれているマーク)、これは橘を表している家紋なんですが、たまたま代表の山本家の家紋も同じだったという偶然も重なりました。

実自体はピンポン玉より小さいぐらい、すごく小さいんです。金柑ぐらいのサイズです。でも、小さいし種も多くて、酸味が強い。生食に向いてないのでスーパーなどにも売っていなく、奈良に住んでいても見たことない人の方が多いかもしれません。ただ香りはすごくよくて、あとは苦味が特徴です

 

― それはジンの味にはよく合いそうですね。一般人からすると『柑橘』としてまるっとくくってしまいがちですが、こんなにも歴史があるんですね。

 


(写真)大和橘の収穫。ピンポン玉より小さい!

 

未経験だからこその試行錯誤と自由な挑戦

― 板床さんはずっと蒸留やお酒造りをされてきてたんですか?

 

私は会社に入って最初の7年間は日本酒の仕事をしていましたが、日本酒ができた後の工程、ボトリングや管理がメインだったので実はお酒造りそのものには関わっていませんでした。ですので2018年に橘花ジンの立ち上げで大和蒸溜所の蒸溜所長になった時も一人で試行錯誤しながらのスタートで。今も基本的には原料調達から蒸留、ボトリング、ラベル貼って出荷まで一人でやっています。

 

― え!全部おひとりでやられているんですか!すごいですね。
ではクラフトジン造りについても、全部独学ですか?

 

そうですね、橘花KIKKA GINを造り始めたのが2017年なので、季の美が出て和美人がでて、、というクラフトジンブーム初期の時代。知り合いもいないしボタニカルも少ないし、自分で勉強しながらやるしかない、という感じでした。

でも会社も色々試せる風土なので、自分で気になるボタニカルを集めたりして、提案することができるのでとてもいいです。

 

― では板床さんにとってジン造りの中で一番大変なことはなんですか?

 

これどうやって飲むのとか、どんなご飯合わせたらいいのとか、そういうのが苦手です。蒸留レシピ考えて、ボトル詰めて、ラベル貼って、ぐらいまでが一番好き(笑)

 

― なんと、それは意外な答えでした。他の蒸溜所インタビューでは蒸留工程の大変さをよく聞くんですが、その後の工程が、というのは初めて聞きました。

 

できあがってからのことは専門外すぎてしまって。日本酒の仕事を7年ぐらいやっていたんですけど、お酒ができた後の工程がメインだったので、今はお酒造りに関われるのがとにかく楽しいです。

 

― ちなみに、蒸留器へのこだわりはありますか?

 

作ったこともないし、何がいいかもわからなかったので、世界中の蒸留器を見てカッコイイなって思う部分を組み合わせて作りました(笑)自分でカスタマイズしたイメージをエンジニアに見せながら作ってもらって。

 

― 未経験からこそできる、好きなもの詰め込みました!な感じすごくいいですね(笑)

 

 

(写真)板床さんこだわりの蒸留器。
 撮影:笹の倉舎/笹倉洋平

 

こだわり抜いた「陶器に見えるガラス瓶」

― 橘花KIKKA GINと言えば、白い陶器のボトルが可愛いですよね。

 

実はあれ、陶器じゃなくて瓶(ガラス)なんですよ。

 

― え!ずっと陶器だと思ってました!

 

みんなそう思ってます(笑)もともと橘花KIKKA GINはステンレスボトルで始めていたんですが、品質や物流の関係もあり、そちらは2019年頃からは限定品としてしか扱っていなくて。その後、オリジナルボトルに近い瓶が扱えないかと探したところ、日本で一社だけ、白い瓶を作っている会社さんに出会えたんです。日本でレギュラーで使っているメーカーさんはまだいないという時だったので、実質オリジナルボトルのような形で扱うことができました。

 

― ステンレスボトルは限定品とのことですが、その限定品も魅力的ですよね。

 

限定品を作りながら、次のレギュラーを考えていく感じでやっています。限定で作ってみたところから、面白くて奈良らしさを表現できて、ボタニカルの共有量も安定的であればレギュラーとして3種ぐらい作りたいと思ってます。


(写真)陶器のように見える白い瓶。「私、瓶が好きなんです」とお話しされる蒸溜所長の板床さんは本当に楽しそうでした(笑)

 

初めてジンを飲む人に、美味しいジンとの出会いを届けたい。

― ビギナージニーにはどのように橘花ジンを楽しんでほしいですか?

 

橘花KIKKA GINのターゲットとしても、まだジンを飲んだことがない人向けに「初めて飲むジンとして良いもの」というコンセプトで作っています。日本酒の蔵で、日本酒のお店に出していることも多いので「風の森を造ってる酒蔵」というとこから入ってもらって、ジンってこんなに美味しかったんだ」と思ってもらえたらと。

だから柑橘の香りが前面に出る、誰も嫌いな人がいなさそうな味を目指して作っているんです。飲み方も、何対何とか気にせずに、どぼどぼって入れてどう作っても美味しい、というものを作りたい。

 

― たしかにビギナーの方からすると、どう割るとかが難しいですもんね。

 

そう、だからなんとなく割ってみて、濃いなと思ったらたせばいい(笑)

朱華(「はねず」:イチゴを使った同社のジン)を作った時も、いちごの香りが前面に出るように、分かりやすく華やかでキャッチーな香りが出るようにしました。トニックよりも、三ツ矢サイダーみたいな甘いサイダーの方が合うかなと思って作っています。トニックより手がるに手に入りますし。

 

― それはビギナーの方からすると選びやすい要素になりますね。

 

ジンぽくないジンを造ってるという自覚もあるんです。ジュニパーベリーを効かして、とかではなく柑橘がわかりやすいように。

 

― なるほど。ジンブームが来ているとはいえ、まだまだジンに馴染みがないという方は多いですし、そうした「ジンっぽくないジン」から入れるのは非常に魅力的かもしれませんね。
私たちもビギナージニーの方々にこそジンを広めていきたいと思っているので、非常に参考になる考え方です。
本日はありがとうございました!

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~ 編集後記 ~

今回は、奈良への出張取材でした!楽しかった~!
蒸溜所長である板床さんとは歳も近いのですが、同年代の方がこうしてゼロから挑戦されているお話にはすごく刺激をもらえますね。

ちなみに、お話の中に出てきた「THE SAILING BAR」のマスターバーテンダー渡邉さんは、世界的なバーテンダーの大会「ワールドクラス」で国内優勝、世界大会でも9位というめちゃくちゃすごい方だそうです。

今回はお邪魔できなかったので、次回奈良に行くときには絶対THE SAILING BARで橘花KIKKA GIN飲んできます。

 

<橘花KIKKA GINのより詳しい情報はこちらから!>
HP: https://www.yamato-distillery.jp/

IG: https://www.instagram.com/yamatodistillery/

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